岩波書店『新日本古典文学大系 明治編 政治小説集一』に収録されている「汗血千里の駒」の文庫版。両書をザッと比較したかぎりの変更点には、
- 大系版で脚注だったものが、文庫版では本文テキストとは別に「注」として独立。
- 大系版で脚注だったものの一部が、文庫版では本文にカギカッコ(
[ ]
)のかたちで挿入されている。
- 大系版の脚注と文庫版の注とでは、後者が前者に比べて簡略化の傾向。
- 大系版にあった補注が文庫版には存在しない。
- 大系版にあった補注から人物解説のみ独立し、文庫版では「人名一覧」として立項。
などが見受けられる。
「汗血千里の駒」の単行本は、明治期だけで八〜九種ほどが出版されており、岩波版(大系版と文庫版)の底本には土陽新聞連載時のものが基本そのまま使われている。岩波版の登場まで世にもっとも流布していた摂陽堂版(=春陽堂版)は、
土佐史談会復刻の『
汗血千里駒』で確認ができ、筑摩書房『
明治文学全集(5)明治政治小説集 第1』収録のものは、挿絵を一部で欠いているものの、岩波版とおなじく土陽新聞版が底本にあたる。
諸書に敢えて住みわけをもとめるのなら、注記のこまかい大系版が内容の充実度では一頭地でていて、コストパフォーマンスなら文庫版で一択。流布本のかたちを確認したいのであれば土佐史談会復刻版。取っ付きやすさなら現代語訳の『
坂本龍馬伝 明治のベストセラー「汗血千里の駒」』・『
真龍馬伝 現代語訳汗血千里駒』が撰ばれるだろう。