関連本など
雑感・感想
伝記の叢書として学術的にも定評のある吉川弘文館の「人物叢書」に小松帯刀本が登場。単行本として出版されている小松帯刀伝を「幕末期薩摩藩を主題にした書籍と情報面でカブる部分も多いだろうから」と怠けて読んだことなかったのですが、今回は叢書への信頼感も手伝って、良い機会とばかりに手にとってみました。
まず幕末維新期薩摩藩指導者の一人としてしられる小松帯刀を主題にした本書は、当然その足跡をおうことで同期の薩摩藩政史にもちかい趣きがあり、近年に出版された薩摩藩関係の本(芳即正『島津久光と明治維新』や佐々木克『幕末政治と薩摩藩』などなど)にいくつか目を通していれば、理解の大変つよい一助にもなるので余力があれば一読をオススメします。帯刀本人の立ち位置も、より鮮明になることでしょう。
小松帯刀本人の概略はものの本を開けばあらあらながら載っているので、本書を手にとろうという方は、役職経歴の詳細や彼の人柄にまつわる挿話、藩の政策・政治決断に彼がどう具体的に関わったかなど知りたいがゆえに読まれるのかと思うのですが、役職の経歴についてはいきおい政治活動と一体になっているものが多いので、さして意識せずとも話題の展開上、多くの経歴が自然把握できるようになっています。人柄については手紙引用のほか、彼の政治的役割・行動がその人格に負っている点の多きを本書は指摘し、政治的決断についても、本書の概要に海軍増強など強藩づくりを推進し、中央政局においては、大政奉還から王政復古を導き出した演出者であった
とあるがごとく、一番に力のはいっている著述部分。ここに興味が惹かれたのであれば、とりあえず手にとってみても損はないかと思います。
なお著者の高村氏が明治期の経済史を得意とすることもあって、薩摩藩における海軍の増強・強藩づくりについて、財政・財源面から目配りをされた考察・説明が載ります。ここは小松帯刀伝という範疇から少しはみ出てる気もしますが、著者の特色としてこの点はある意味本書の白眉かも知れません。小松本人・薩摩藩のいづれか一方にでも興味があれば、一読損のない本です。
吉川弘文館:二〇一二年六月二〇日:2,100円(税抜)
(平成ニ四年八月二三日識)