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永井義男『剣術修行の旅日記』につき雑感


永井義男『剣術修行の旅日記 佐賀藩・葉隠武士の「諸国廻歴日録」を読む』

概要

『剣術修行の旅日記』 佐賀藩士、牟田文之助は23歳で鉄人流という二刀流の免許皆伝を授けられた剣士である。嘉永六年(1853)、24歳の文之助は藩から許可を得て、2年間にわたる武者修行の旅に出て「諸国廻歴日録」という克明な日記を残す。この日記を読むと、命がけの武者修行というイメージが覆される。
 文之助は各地の藩校道場にこころよく受け入れられて思う存分稽古をし、稽古後にはその地の藩士と酒を酌み交わし、名所旧跡や温泉にも案内される。「修行人宿」と呼ばれる旅籠屋に頼めば、町の道場への稽古願いの取り次ぎもしてくれる──。まるで、現在の運動部の遠征合宿のようだ。
 江戸はもちろん、北は秋田から南は九州まで現在の31都府県を踏破した日記から江戸末期の世界がいきいきと蘇る。千葉周作の玄武館、斎藤弥九郎の練兵館、桃井春蔵の士学館など、有名道場に対する文之助の評価も必読。
[以上、内容紹介から引用]
はじめに
序章 牟田文之助の出立
第一章 剣術の稽古の変遷と隆盛
 一 武士の文武教育/二 剣術の稽古法の変遷/三 剣術のスポーツ化と隆盛/コラム1 剣と刀/コラム2 大石進と長竹刀
第二章 武者修行の仕組みと手続き
 一 修行人宿で依頼/二他流試合の実態は/三 剣術道場のありさま/コラム3 上田馬之助の早業/コラム4 不意を衝かれた剣客
第三章 出発から江戸到着まで
 一 米食修行人もいた/二 米屋の倅が立ち合いを望む/三 旅の事情/四 合流して江戸へ/コラム5 大日本諸州遍歴日記/コラム6 加藤田平八郎の武者修行
第四章 江戸での交友と体験
 一 藩意識と藩士の交流/二 時中流との交流/三 藩邸での生活/四 練兵館に入門、江戸の町道場/五 江戸の藩邸道場/コラム7 江戸の撃剣修行/コラム8 江戸の町は道場だらけ/コラム9 講武所
第五章 他藩士との旅
 一 関東の修行/二 水戸での交流/三 奥州を横断/四 村上での日々/五 ひとり旅へ/コラム10 僧侶が武芸の師範/コラム11 花法になる剣術/コラム12 祖父の教育
第六章 二度目の江戸
 一 意外な玄武館/二 藩校道場で上覧/三 江戸を去る/コラム13 文之助が面会または立ち会った剣豪/コラム14 剣客の名簿
第七章 帰国の途へ
 一 中山道を行く/二 石川大五郎との再会と別れ/三 遺恨の修行人/四 二度目の京と大阪/五 四国での修行/六 九州での修行/コラム15 歳後の戦場/コラム16 明治以降の剣道/コラム17 陸軍の剣術はフェンシング
第八章 最後の旅I 史実と時代考証
 一 旅の苦難/二 食と性/三 舟で帰途につく
おわりに
[以上、目次から引用]

雑感

書感 タイトルに名の見えていない本書の主人公 牟田文之助は天保元年(1830年)年生まれの佐賀藩士。激動の幕末維新期を生きた人物とはいえ、政治活動に率先身をていしたタイプでもないので、剣術や剣客に興味ある人、地元佐賀の人でもなければ、まず知らないだろう人物。

 本書に描かれるのは、牟田文之助『諸国廻歴日録』を下敷きとして展開される幕末期における所謂「武者修行の旅」の実像である。記述は淡々と彼の記すところを引用するのではなく、内容を現代文風の会話に書き改めてみたり、心情描写をおりおりに混ぜてみるなど学術張った雰囲気とはだいぶ遠く、時代モノが好きな人・興味ある人にかるい気持ちでオススメできる比較的ライトな書き振りになっている。逆に言えば、どこまでが日録本来の記述に基づいていて、どこからが著者の補足に成る部分なのか、当然だが判然とはしないので(ただし巻頭の「はじめに」によると内容をゆがめるような創作はしていない由)。

 牟田文之助は名を高惇といい、宮本武蔵の流れくむ二刀流の剣術「鉄人流」の剣客。佐賀藩で剣術師範をつとめる吉村市郎右衛門の二男として生まれ、のち同藩の牟田家に養子入りした。嘉永五年(1852年)数え歳二三にして実父と別師 内田庄右衛門(流派おなじ鉄人流)の二人から流派の皆伝を授かり、翌年九月から安政二年(1855年)九月まで諸国遊歴の武者修行に出ている。その旅のあいだ各国諸藩を精力的にめぐり、立ち寄った各地の藩校や道場の模様を筆まめに日記へとまとめたのが件『諸国廻歴日録』である。この記録は彼時々の生活模様はもちろんのこと、立ち寄った道場の規模や造り、立ち会いの感想など、なかには当時の有名道場も多いだけに貴重な記述が散見される(ちなみに道場の構成や立ち合いの感想は本書に別表としてまとめられており対比もしやすく至極便利)。

 本書のなかで著者の永井義男氏は剣術をスポーツ化という流れと視点で捉え、牟田の接した当時の風俗について、現代人にありがちな思い込みや勘違い・疑問などを念頭に種々解説を試みる。この辺はヘタすれば事実の羅列や単純な指摘のみにもとどまり兼ねないテーマを巧みに読ませるのは著者の力量がなせる業なのだろう。挿話の形で各章の合間に入れられるコラムは、剣術にまつわる著名なエピソードや一般イメージとの相違などなど、その解釈や語り口には(私としては)共感できる点が多く面白かった。

 先日、大石学『時代劇の見方・楽しみ方』という大河ドラマの時代考証を主題にすえた所謂"見方"本を読んだあとだけに(手前勝手にも)思うのだが、楽しみ方として史実とシナリオ上(作劇上)の近いをあれこれ語られるより、文化や風俗など時代の世界観にまつわる指摘の方が、個人的にはのめり込みやすかった。人物を主題とした考証説明であれば、対象人物の伝記や舞台となる時代史を読んでしまえば一往粗々とはいえ相違をつかめるのに対し、文化・風俗は個々に内の主題が独立するため中々一筋縄でというわけにはいかない。本書はその点「剣術」と「旅」にピンポイントでフォーカスがされている何気に貴重な書籍だと思われる。初学のうちに読んでおけば何かと有益な本、主題に興味ある人には是非一読をすすめたい。

朝日新聞出版:2013年8月25日:1,600円(税抜)

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(平成ニ五年九月二八日識)

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