関連本など
雑感・感想
吉川弘文館から出た新叢書で、なおかつ坂本龍馬本ということ惹かれ購入。書名だけ見ると旅や史跡のガイド本かと勘違いしそうだが、その構成は第一部(I)が坂本龍馬伝、第二部(II)が幕末維新期の京都情勢、第三部(III)が上記の京都史跡数カ所について、それぞれ龍馬との関わりをふまえながら解説をおこなうという体裁である。
第一部の龍馬伝は佐々木克氏が旧著『坂本龍馬とその時代』で述べられたことをベースにしながらも、こちらの本にのみに見られる解釈や意見が散見され、単純に前書をページ数にあわせ簡略化したものとは言えない内容になっている。
例えば、長州がフランス軍に台場を占領された文久三年(1863年)六月の戦について当時の史料のほとんどに長州が負けたと記される中で、龍馬だけは「日本」が負けたと書く
(P24)という指摘や、慶応三年(1867年)一一月に龍馬が見廻組に斬殺された件について龍馬は寺田屋で、伏見奉行所配下の者を射殺しているからお尋ね者であったことは事実だが、見回り組の役目は捕縛だから、まず龍馬捕らえることが筋であろう
(P64)とされる指摘など、気づいてしまえば一見当たりまえなのだが実際に斯く言及されることは少ない。
そのほかに初聞の見解や新しい意見としては、龍馬と西郷隆盛が初めて面談した時期について、「船中八策」偽作説(後世の創作説)を念頭におき述べられていると思しい慶応三年六月以降における龍馬の立ち位置や役割について、「新政府綱領八義」(一般には「新政府綱領八策」と呼ばれる史料)についての解釈(同史料文末にみえる○○○自ラ盟主ト為テ
の意味)など、ページ数の都合で論の長短にバラツキこそ見られるものの、興味深い・面白い記述がまだ多数散見することができる。
(ちなみに私は本書を読むまで龍馬と岩倉具視が面談した場所を、いまの左京区岩倉上蔵町にある岩倉具視幽棲旧宅においてだとばかり勘違いしていた)
総じて内容はビギナー向けに平易に且つ簡便だが、端々の文にキラリと光る指摘が多いため「違いの解る人」にも是非一読してもらいたい本である。紙数の都合でそれぞれの論や指摘が詳述とまでいかないのが惜しまれる。
吉川弘文館:二〇一三年(平成二五)十一月一日:2,000円(税抜)
(平成ニ五年一一月二九日識)