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短歌篇(武市半平太)

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武市半平太

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短歌篇(一)


天地に 恥る心は 更になし たとひ囚に くち果るとも

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敷島の 道ふむ人は むかしより かかるためしの ありとおもへハ

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神ならて たれかわしらん 目に見へぬ 心の底の 清き光を

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夜もねむれぬまま雁の声にても聞きたけれとも
雁か年も うとましとてや 此頃 雲井を渡る 声たにもなし

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寒けさに うれたさも又 いやまして 更行ままに 袖は氷れり

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逢事の ならぬ此身と なりぬれと こころの逢そ うれしかりける

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かきねんど 門松なとの 売声を 聞てこそしる 年の暮とは

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たをりこし 梅の一枝 見てしより 家人に逢 心地こそすれ

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この梅の 花をハ君の 面影と おもひかえして なかめくらさん

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大君の 御ものおもひも しりながら 安けく暮す 世の人やなぞ

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世のうきを いとど思に くれ竹の 身のふしぶしも くだくばかりに

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あぢきなき 事とはよくも しりなから などおもかげの わすれえぬらん

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年の暮
あはれてふ ことの葉をのミ くりかえし いととなみたに 暮るとしかな

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うきことハ くれゆく年に たぐゑやりて むねのおもひの はるをむかへん

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知義[檜垣清治]のもとより橘を我に送りけれハ
賎ガ身も 君がめぐみに 橘の 香くわしき名は 千代にとどめん

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香くわしき 名も橘の 湊川 清き流れを ともにくまなん

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元旦
とそ酒を 梅とくまなん あら玉の 年立けふを 心いわゐて

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はると聞けと いつくに春や きたりけん 人屋の内は 色も香もなし

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とし月ハ あらたまれとも 世のさまは あらたまらぬそ かなしかりける

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私も不相更、梅の花を見暮し居申候
深く匂ふ 色香もなくハ 梅の花 など手折るる 事のあるへき

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ひとりねの 枕に匂ふ 梅か香に ゆめおどろかす 春のあけぼの

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ひとり身の 友とおもへは けさも又 ほほえみかくる 窓の白梅

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ひげハのひ やせおとろへて ほ年がでて また其上二 あかハぼろぼろ

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さひしさに いととおもひの まさりきて 尚袖ぬらす 夜半の春雨

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例のとふ水[拙歌の意]
にごりなき 水の流を くむ人は 水の心を しる人そくむ

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君がくむ 清き泉を 世に流し にごりし四方の人にくまさん

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川上の 元の泉は 清けれと にごり流るる 世をいかにせん

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雨をよろこふ
愛ぬへし 花の咲の もえとえとと ふる春雨の めくみなりせハ

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ふりつづく 此春雨に 世の中の 積もりしおかも あらい流さん

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恵まれし 梅の色かに 身をたぐへ はるをまたで 咲にほハなん

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かきりなく めづはかりけり くれないに さきにほひける 梅の一枝

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ふしの山のゆめを見けれは
おもふこと はるるしるしや ふしのねに かかるくもなき ゆめを見しとハ

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春風の ふけハいつしか 冬ふかみ ふりつむふしの ふぶきさへきゆ

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長州がこのころおとろへて水戸のつくば山ぐみかはげしきと聞て
冬ざれハ にほひし萩も かれはてて つくはの山の 風そさやけき

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うき雲を ふきはらハなん わしのすむ あはれつくばの 山おろしの風

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つどひして かたりあハなん 二年の つもるうきをハ むかしにぞして

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日くれに雁を聞きて
冬の日の 空もしぐるる 夕暮に あわれをさそふ かりの一声

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風ふき寒けれハ
空さへて 木がらし寒し あし引の 山のあなたニ 雪やふるらし

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わか身をおもひて
み山木の しづゑし谷の あつ氷 とくることなき 身ぞあわれなる

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八日[元治元年一二月か]の朝雪ふりけれハ
野も山も しらぬ身なれハ 今しばし しゐてふらなん まとのしらゆき

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夜月さし入けれハ
夜を寒み 空さへわたる 月影の 物おもふわが 袖わ氷れる

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朝梅の花よく咲けれハ
物おもふ われとしりてや 梅の花 いろりもことに 今朝ハ咲けり

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のこりなく 咲ハ又ちる ちるはうし 心しななん 花かめの梅

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初雪
朝まだき おちつつ見れハ ちりあへぬ 庭のこの葉に かかるしらゆき

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山家雪
まれニとふ 人もありしに この頃の ふりつむ雪に 道やたへけん

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都べの 人に見せはや わかさとの 木ごとの花の ゆきのけしきを

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[村田丑五郎への]返し
おもひきや ひとやの内に ながらへて 又えみ初る 梅を見んとは

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天神様へ日々参ると聞きて
あわれ汝が 赤心を すがはらの 神のめぐみの なからましやハ

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天満宮御祭りの日、御やしろの梅の花をもらいけれハ
真心を 神やしりけん かしこくも けふみやしろの 梅が初花

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恵まれし梅の色香にたぐゑつつ 君かこころを ともにめてなん

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ふぢばかまというを折句によめる
ふる雪の ちりくるさまを 花と見て 香さへやありと まどひけるかな

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ふることを ちぢにおもひて 春の日も かなりかりける 松風の音

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ふゆの梅
吹風に ゆめ打さめて のそみ見れハ うかへる月そ めつへかりける

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ふゆのうめ
ふるさとの ゆめハ夜な夜な のこりけり うらかなしくも めくる月日か

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浜への雪
もしほやく けむりと見しを 須广浦 並木もわかず ふれるしら雪

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赤石がた 雪の夕暮 ながむれば 波の底より 帰るつり舟

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(平成某年某月某日識)

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