短歌篇(二)
湖雪
近江ノ海 雪の夕暮 見渡せば 浪やこゆらん から崎のまつ
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駅路雪
ふりつもる 雪に鈴鹿の ねも絶ヌ 関のこなたに 宿ハからまし
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川辺雪
思ひやれ ふはまもさゆる 雪の夜に 綱手もおもき 淀の曳舟
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牡雪
八幡なる もりの梢に かかる雪 神の名におふ 旗と見ゆらん
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故郷雪
草も木も 枯てしら雪 降里ハ 消るばかりに 物や思はん
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山地雪
音信も 絶てふりにし 山里も 今朝の 初雪人に 見せばや
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初雪
有明の 月や照はと 打見れば 落葉か上に ふれる白雪
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浦辺の雪
明石かた 降くる雪に かきくらし 遠くなりけり ゆく淡路しの山
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さ夜中に まと吹風の 身にしみて 寒けき床に 匂ふ梅か香
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冬の日ハ いくかもあらし 咲からハ 鴬さそへ まとの梅か香
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初雪
わか宿の 木々の紅葉ば ちりてはてて 寒けさまさる けさの初雪
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山家雪
ふる雪に 谷の水さえ 音たゑて さひしさまさる 山すみのいを
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古郷の雪
いつしかも 野べの草木ハ 冬かれて むかしをしのふ 古郷の雪
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初日影 にほい出たる のとけさる おもひも春の 心こそはれ
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諸共に 冬籠して 此の花の 今を春辺の 思ひ出もなし
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初春
春といへば 心のどけし 遠山乃 ゆきげの雲も かすみとや見ん
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野へに出て ながめんとおもふ ともすれは のどけきままに 身をはわすれて
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雨ふりけれは
もへ出る 木草とともに 春雨の ふるきむかしの 御代としもかる
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ふる雨に 遠山のへの あわゆきも 花と見しまに うつろひにけり
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雪のうちに 埋みし野辺の 若菜さえ 人に摘まるる 春となりつつ
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むらくもの 月にかかりし はれまをは まつは千年の おもひなりけり
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[注…この歌は水戸の岡崎某の作か]
みしはちを すすがんまでと ちりよりも おしからぬ身を なかろうるかれ
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ふるさとの ゆめは夜な夜な のこりけり うらからしくも めくる月日か
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ふたたびと 返らぬ歳を はかなくも 今は惜しまぬ 身と成りにけり
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花咲て 散らは色香を とむへきを つぼみながらの 身そ哀なる
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北山の 時雨にくもる 君が身は はや晴れ渡る 時やくるらん
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久方の 雲井を渡る 雁かねの 声もあはれに 聞へけるかな
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雁かねも 心ありてや あはれけに 雲井にまよふ 声聞ねなり
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終に
いねてみて 叉おきてみつ いねてみつ 今宵も聞し 暁のかね
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獄道の 云ならわしは これなるや ねたりおきたり くたりひつたり
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けふはとの様御乗舟と拝し折柄風吹けれは
払ひてよ 都乃空の 浮雲を けふ吹出す 土佐の浦風
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夕かた御供の人々賑々敷立行けるを聞て
加茂川の 清き流に 身をそめて そそぎて帰れ 濁る心を
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廿二日[元治元年一二月か]今朝は雪ふりけると聞けれど見る事もならずて
ふる雪も 尚うらめしき 朝ぼらけ 窓うつ風の 音のみそ聞
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せめてこの 軒端の窓も ままなれは 花そとも見ん 今朝の初雪
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我身を歎きて
ふたたひは 又めくりこぬ 月や日を おしみもやらぬ 身とはなりける
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かきりなき 獄の内の うれたさも うち忘れたり 君かうつし絵
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厚氷 はりし心は 清けれと 解日の神を 曇ぞ憂
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わし鷹の 爪折しより むら雀 世を憚からす 鴨渡るらん
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頼みつる 梶おれしとて 舟人の 真心あらは 神や守らん
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ことの葉を かわすにつけつ ゆかしさの 猶いやまさる 君の面影
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兼ねてより 君にささけし 身なりせは 囚の中も なにかいとわん
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君の為 植し千草も 此頃の 朝けの霜に 冬枯にけり
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守人の あと先分かぬ むだことを 聞につけつつ 憂ぞましけり
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九月三〇日の夜
虫の音も いとと哀しく 聞こえけり 今宵はかりの 秋とおもへは
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大空に 照る月影は 清けれど 蔽へる雲を いかにかせん君
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人の目に 見へぬ心の 増鏡 清き光は 神そ知るらむ
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筆の迹 見るにつけつつ 床しさの なほ弥増る 君の面影
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忌はしき 獄屋に積る 此のうさを 弥陀の国にて 共に語らむ
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家に送りし消息の中に月の歌とて
世を思ふ 心の足らて かかる身は 隙洩る月の 影も恥つかし
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春曙
あはれさは いひもえやらず 月影の 霞にのこる 春のあけほの
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かにまよふ 花のつぼみの年ざかり ちうとせつぎにふみなづむ みちのつじうらからすなき ひらくふばこのかきおきに おどろくかひもなつくさの なみたのつゆもおしつつみ かたきととにいたたかぬ てんのたすけにむねんもはれて のちのおんなのかかみ山
[俗歌「黒髪」の替え歌、半平太が妻・富に贈ったもの]
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[元歌]
はるかきままになるならは さくらにきよき月をみて いとしいおかたとねてみたい なつがきままになるならは かのないさとへすまひして すみ田のあらしにふかれたい
(半平太作の替歌)
春の日ながにをりはたや またぬひはりのみようふをえて くにのおためかしてみたい
なつはこがひや田うえなど いえのなりはひいとなみて おやをすすしくしてみたい
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(平成某年某月某日識)
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