関連本など
雑感・感想
二言三言で大づかみ説明すると「和歌の感性があたえる影響を軸にながめてみた幕末維新史」とでも評すべき本。大筋は和歌とそれまつわる挿話を中心につらね、おりおり和歌によって培われる感性・精神性などについて言及する体裁。
紹介される和歌・挿話には管見のかぎり新史料や目新しい情報はとくにないので(一番発見の新しい話題は、2009年報道の西郷隆盛辞世説のある漢詩肥水豊山路已窮
〜についてかと)、関連挿話に初聞するものが多いかどうか、そこに購入の是非があろうかと思います。書名に「龍馬」の名を冠してはいますが、龍馬の和歌だけで約250ページも尺がとれようはずもなく、分量的には龍馬の和歌と薩摩藩関係者の和歌でほぼ半々。それに吉田松陰や和宮といった幕末維新著名人の和歌をくわえ、補足的に和歌の歴史や文化性について説明があります。
本書は龍馬の和歌(短歌や俚謡などを含めて二六首)がひろく全体に飛び飛び配置にされている都合上、「龍馬の和歌だけ」というような読み方にはむいてませんし、個々の和歌のこまかい詠作事情だとか、詠作時期の推定だとか、文学性とかいう点にはあまり深く言及されていません。文学的な指摘では大岡信氏の論によってるところが大半です。
良くも悪くも肩のこらない和歌にまつわる挿話紹介本というのが印象です。
海竜社:二〇一〇年五月一〇日 発行:1,500円(税抜)
(平成二二年五月二一日識)