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雑感・感想
うえに引用しました書籍情報からおわかりの通り、本書は坂本龍馬・西郷隆盛・明治天皇・土方歳三・近藤勇といった五名の写真について、渋谷雅之氏・石黒敬章氏・倉持基氏・土方愛氏・森重和雄氏ら著者五人が、それぞれ該人物の写真にたいし考察をおこなっている書籍です。
幕末維新期の写真を多数掲載し、ビジュアル情報の提供を意図した書籍なら巷間おおくありますが、人物写真を特にしぼって集中的に考察をくわえるという体裁の本は、雑誌などに一論文としてならばともかく、有りそうに見えてあんまり多くはないでしょう。写真にたいする書誌さながらの観察には、モノの見方という点で目からウロコが落ちました。
内容のうち、近藤勇篇は二種類確認されている肖像の各印画と所蔵者などを紹介、土方歳三篇もこれにやや準じられた構成。明治天皇篇は節目ごとおおやけになるされる御真影について、そこから明治国家へ希求されるイメージ像を看取ろうとする論文。西郷隆盛篇は偽西郷写真とその根拠を順次あげていく内容で、執筆者のおかしみある文章があいまし、読みものとしても楽しめます。坂本龍馬篇は本書中もっともページ数が多く、先行研究の蓄積があるぶん論も詳細。写真に関する知識のうすい私には、聞くべき指摘が多くたいそう勉強になりました。
如上人物の写真、または古写真からよみとれる情報というものに興味ある方には読んで損ない一冊かと思います。
渡辺出版:二十二年五月十五日 発行:2,400円(税抜)
(平成二二年六月一三日識)