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鈴木典子『池道之助日記 現代語訳』につき雑感


鈴木典子『池道之助日記 現代語訳』

概要

『池道之助日記 現代語訳』 池道之助 幻の絵日記を完全復刻
ジョン万次郎から取材した「文物見聞録」も収録
 池道之助日記の時は、まさに幕末。その時期に、「才谷梅太郎」という変名だけでなく坂本龍馬という本名や"いろは丸事件"の話しが出てくる。一緒に「聖福寺へ行き、紀州ノ藩と談判致ス」と生々しい。「唐人の饗応」は「清風亭」で「お元」も顔を出している。本人も、上海に出張して調達してくる「朱林舟」という蒸気帆船は、土佐"海ゑん隊"の旗艦・夕顔丸のことだ。高校時代に修学旅行に行ったグラバー亭へは、本人と万次郎が一緒に出かけているのだ。(序にかえてより)
[帯から引用]
 目次
序にかえて(永国淳哉)
思出草
噺し乃種
文物見聞録
今昔大変記
嘉永七年寅年地震津波記
あとがき(鈴木典子)
[目次から引用]

雑感

書感 中浜万次郎や土佐藩の開成館事業について興味のある方であればおそらく御存知であろう人物、池道之助。彼は万次郎とおなじく土佐国幡多郡の出身。本書の「序にかえて」によると実家は志わやを号する商家かと目されており、現地古老の言い伝えではくすり商いをしていたかもしれないというも確然としない。慶応年間に中浜村で民兵をつとめ、万次郎にさそわれるまま高知城下へと同行し慶応二年(1866年)七月七日、さらに万次郎にしたがって高知から長崎へ旅立ち、出崎官の用務にたずさわる傍ら、この地で勉学にいそしんでいる。

 書名にいう「池道之助日記」とは、この出仕時分を中心にあつかった日記『思出草』と『噺し乃種』のことで、前者は慶応二年三月二五日から慶応四年正月一三日、後者は慶応四年正月二〇日から明治四年(1871年)二月(ただし本格的な記載は明治二年春)までを対象としている。

 「序にかえて」を執筆された永国淳哉氏は池道之助の業績として、嘉永七年(1854年)一一月五日に土佐国をおそった地震に材をとる『今昔大変記』の執筆と地震記念碑の建立、中浜万次郎に取材した絵入り海外事情資料『文物見聞録』の作成、後世に歴史史料としてのこった『思出草』・『噺し乃種』の存在をあげており、本書では印影(写真)とともにこれら諸資料を閲覧することができる。

 著者の鈴木典子氏は池道之助から数えて五代目にあたられる御子孫なのだそうで、底本について本書に特段の説明はないのだが、「序にかえて」と「あとがき」をよむかぎり、池家につたわっていた諸史料原本は三・四代目のころ一時永国氏にあずけられ(貸し出され)、いまはふたたび鈴木氏のもとへ戻されたものかと推測される(勘違い・誤読だったらゴメンなさい)。

 本書の構成は上段に原本を掲示し、下段に鈴木氏の訳が載るという体裁(ただし『文物見聞録』と『今昔大変記』前半部分は印影のみ掲載)で、書名には現代語訳とみえるものの、下段には原本を読み下しのまま記載される例もおおく、文語文と現代語文とが混在し、やや親和しきれていないのが気になるといえば気になる点である。

 読み下しや現代訳のさい、適宜用字も原本からあらためられているようで、はじめは判読ミスかとも疑えたが、ある程度一貫した改変例を考慮すると、読者のよみやすさを考えた結果おこなわれた判断かと思われる。そのため本書を史料として活用するのであれば、印影を念のため参照し誤植や判読違い、読み下しや訳に違和感を感じないか、あらかじめ確認されることをオススメする。

 ちなみに、あとがきには池道之助日記下巻を先に出し、その後上巻が一年後に出来上がりましたとみえるので、本書のほかにも別史料を材にした同類の書籍がすでに出版されているのかに思えるのだが、検索をしたかぎりでは、それらしいものを私は見つけることができなかった。御存知の方がいらっしゃいます?

リーブル出版:2011年5月25日:1,500円(税抜)

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(平成ニ三年八月二六日識)

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