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桐野作人『龍馬暗殺 歴史文化ライブラリー』につき雑感


桐野作人『龍馬暗殺 歴史文化ライブラリー』

概要

『龍馬暗殺 歴史文化ライブラリー』

 薩長周旋の立役者坂本龍馬が殺害された近江屋事件。史料も多く、事件のあらましは判明しているのに、なぜ謎多き事件として惹きつけられるのか。襲撃者の供述を再検討し、薩長土や会桑勢力の動向から、慶応3年の京都政局の対立軸を明らかにし、事件の真因を究明。事件後の政情や、衰えない薩摩説の起源と誤謬も解き明かし、暗殺の深層に迫る。
[以上、内容説明から引用]

慶応三年後半の京都政局と坂本龍馬 プロローグ
  近江屋事件を語ろう/基礎史料の再検討/脱藩浪士の活動/京都政局と近江屋事件/会桑勢力の動向/事件後の影響/「暗殺」について
近江屋事件の現場検証 今井信郎口書を中心に
 ボタンの掛け違え 新選組説の確定
  油小路事件勃発/高台寺党生き残り薩邸に駆け入る/高台寺党、新選組説を証言
 見廻組説の登場 今井信郎の証言
  今井信郎とはどのような人物か/見廻役と見廻組/近江屋事件後の今井/大石鍬二郎の自供/今井の兵部省口書/今井の刑部省口書/「御差図」とは/今井。従犯を強調/今井口書のウラ取り/判決の明暗
 今井口書の信頼性
  「瑞山会採集史料」/『書抜』の評価と意味/渡辺篤の覚書/『履歴書の原本』/三人が龍馬を斬った?/見廻組説の退潮/見廻組への密命はどこからか
坂本龍馬、京都での危機と薩長との挙兵計画
 近江屋事件の契機 坂本の薩長周旋と寺田屋事件
  薩摩の使者として長州へ/幕府老中、坂本に注目/危険な上京/薩長同盟の仲介/伏見奉行所、寺田屋に踏み込み/薩摩藩、坂本をVIP扱い
 幕府につけ狙われる坂本と中岡
  兵庫での密偵暗躍/中岡慎太郎の危機感
 慶応三年、薩摩藩の挙兵方針への傾斜
  薩摩藩の動向/薩土盟約の合意/「船中八策」の虚構/薩土盟約の弱点/薩土盟約に込めた坂本・中岡の思惑/薩土盟約の棚上げ
 薩摩藩の「三都同時挙兵計画」
  薩摩藩、長州藩に釈明/西郷、三都同時挙兵計画を語る/西郷の「討幕」定義/「薩長芸三藩挙兵計画」
 坂本龍馬、土佐藩に薩長芸三藩への合流を促す
  受難つづきの坂本/坂本と木戸の会談/坂本、小銃一三〇〇挺購入/坂本の愛郷心「急々本国をすくわん」/坂本、最後の帰郷
会桑勢力、未発のクーデタ計画 大政奉還への逆流と反撃
 大政奉還をめぐる京都情勢
  土佐藩の大政奉還建白/薩摩藩の挙兵計画の挫折/陸援隊も挙兵計画に合流予定だった/尾崎三良の述懐/今井信郎と円山会
 大政奉還をめぐる諸勢力の攻防と坂本龍馬
  「三藩決議」と「討幕の密勅」/「討幕の密勅」と見合わせ沙汰書/坂本、後藤をなお不信任/坂本、後藤を叱咤激励/将軍慶喜と小松帯刀の密約
 会桑勢力のクーデタ計画未遂
  会津藩、参内を謀る/会津藩の臨戦態勢/会津藩の三藩要人襲撃計画/なぜ会津藩は大政奉還に反対するのか/桑名藩士、上奏阻止を企てる/桑名藩も武力発動の構え/会桑のクーダタ計画と坂本龍馬/「廃幕派」と「保幕派」の対立構図
<薩摩>説の系譜と虚妄
 <薩摩>説の起源はどこか
  坂本龍馬の「物語」/近江屋事件についての新旧の通説/蜷川新の<薩摩実行>説/明治維新のアンチ・ヒーローとしての坂本龍馬
 作家・評論家の<薩摩>説
  船山馨の<薩摩実行>説/広瀬仁紀の<薩摩黒幕>説/「会津派」の<薩摩黒幕>説
 映像に見る<薩摩>説
  菊島隆三「六人の暗殺者」/黒木和雄「竜馬暗殺」/大河ドラマ「新選組1」/大河ドラマ「龍馬伝」/真山青果の戯曲「坂本龍馬」
 <薩摩>説に論理的根拠はあるのか
  戦後歴史学の考え方/井上清説/石井孝説/原口清説/戦後歴史学の陥穽
 海援隊士佐々木多門の書簡の意味するもの
  佐々木多門書簡の出現/佐々木書簡のあて先/佐々木書簡の意味するもの
近江屋事件以後 幕土衝突の危機
 激発する土佐藩・陸援隊
  坂本と中岡の葬儀/土佐藩要人の危機感と警固/密偵村山謙吉の逮捕/土佐藩、爆発防止の「示諭書」
 土佐藩首脳と幕閣による近江屋事件の幕引き
  土佐藩、旧幕府を追求/近藤勇が処分された?/紀州藩士三浦休太郎の襲撃/近江屋事件の影響と結着
幕末維新史の忘れえぬ記憶として エピローグ
  旧幕府勢力と坂本龍馬/坂本の将来展望
あとがき
参考文献
[以上、目次から引用]

管理人のTwitterでの感想

雑感

書感

 目次全文(概要)と私的に特筆したかった部分(管理人のTwitterでの感想)はだいたい上掲の通り。一往Twitterでつぶやいた点に補足しますと、まず今井信郎の人物については彼と佐々木只三郎の交友について伊東成郎氏の著書から『杉村梅潭目付日記』を紹介し、見廻組の組織については市居浩一氏の論文をもとに要点が簡潔にまとめられています。龍馬暗殺の基礎史料となっている「瑞山会採集史料」のうちの『坂本龍馬謀殺一件書抜』については、こちらも市居氏の論文を参考に類書ではなおざりにされがちな史料批判も怠りがありません。また龍馬と薩摩藩の交渉が緊密になっていく元治元年(1864年)一一月から暗殺にいたるまでの記述は、最新の情報にもとづいた龍馬伝記として大変面白いです。会桑勢力によるクーデター計画は話題として取り上げられること自体マレなこともあり、読者の多数は新鮮な感覚で読めるのではないでしょうか。個人的にはこの点、政変により非体制側へと変わりつつある武力集団の動向や反応(リアクション)例としても興味深かったです。ちなみに目次の見出しでいう「海援隊士佐々木多門の書簡の意味するもの」についてはTwitterで『歴史読本』連載時より詳細な解説と記憶のままにつぶやいてますけど、改めて確認したみたら連載時のものの方が話題の範囲や情報量は多めでした。この部分は"連載時の解説から要点を抑えた説明などなど”に訂正させてください。申し訳ありません。^^;
 あとTwitterでは文字数や発言数の都合もあって言及しませんでしたが、学術系の書籍では権威や品位に関わるのか得てして見なかったこと・相手にされないことの多い一般の説まで「作家・評論家の<薩摩>説」として本書では論の対象になっています。次章の「映像に見る<薩摩>説」とあわせて、このあたりへの見解は人によって(個々の論述によってもさらに)マチマチかと思いますが、個人的には「会津派」とされる人々(中村彰彦氏・星亮一氏)の論を「会津性善説」と評されていたのが妙に印象的でした。まさに言い得て"妙"。

吉川弘文館:二〇一八年(平成三十)三月一日:1,800円(税抜)

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(平成三〇年四月二九日識)

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