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【海】(海ヨリ援クさん著)


 

早くに目がさめてしまった。

昨夜、遅くまで新政府の構想を練っていて、床についたのは空が白み始めた頃だった。

一刻も眠ってないのではないか?

しかし、眠くはなかった。

「興奮してるのかな」

龍馬はクスリと笑った。

昨日、徳川十五代将軍慶喜が、二条城にて政権を朝廷に返上することを宣言したのだ。

龍馬は海援隊の仲間と共に、二条城に赴いている土佐藩家老後藤象二郎からの結果を知らせる書状を

待っていた。

しかし、使者はなかなか現れない。重苦しい空気が部屋を取り巻く。龍馬も、もはやこれまでかと

覚悟を決めた。

夜遅く、やっと使者がやってきた。龍馬は急いで書状を開く。

皆が見守る中、書状を読む龍馬の手がだんだん震えてきた。泣いているのだ。

「まさか・・・・!」

皆の胸に不吉な予感がよぎる。

龍馬の手からこぼれた書状を、皆奪い合うように一斉に読んだ。

部屋中が静まり返る。

しばらく間を置いて、誰かが震える声で「ば・・・万歳!」と叫んだ。

一人、二人、そして皆。龍馬はただただ泣いている。

そこには、「慶喜公が政権を返上された」と、はっきり記されていたのだ。

 

喜ぶのも束の間、なんとか落ち着きを取り戻した龍馬は早速新政府の役員名簿を作り始めた。

そこには、薩摩の西郷や大久保、長州の桂などは勿論、将軍慶喜の名まで載っていた。

「しかし坂本さん、薩長はこれじゃあ承知せんでしょうなあ」

隊士の一人が言う。

「今更薩摩じゃ長州じゃいうていても何にもならん。もう徳川の世は終わったんじゃ。『日本全国』から有能な

士を集めて新政府をつくる・・・それが日本の夜明けの第一歩ぜよ!」

龍馬の瞳は輝いていた。

 

—皆はまだ眠っている。

龍馬は水を飲もうと裏の井戸へ向かった。

井戸の水はひんやりと冷たく、心地よい。

そのまま縁側に腰を下ろした龍馬は、静かに眼を閉じた。

 

遠い土佐の、昔良く遊んだ桂浜の海辺が見える。小さい頃の自分が、そこに立っている。

目が赤い。泣きはらした目だ。

龍馬は小さい頃、本当に弱虫だった。近所の子供達にいじめられて泣かされるたびに龍馬はこの桂浜へ

やって来ていた。

目の前に広がる海。その先には、自分の知らない世界がある。

海を見ていると、自分が本当にちっぽけな人間に思えてきて、いじめられても泣いてばかりいる自分が

とても恥かしく感じられた。

—いつか、海を越えてまだ知らない世界をこの目で見てみたい—

毎日のように海を眺めに来る龍馬の胸には、知らぬうちにそんな壮大な夢が宿っていた。

土佐を脱け、新しい日本の樹立の為に日本中をかけまわる多忙な龍馬だったが、子供の頃からのその「夢」

を忘れたことはかたときも無かった。

龍馬の活動の原点にはいつも「海」があったのだ。龍馬の目の前には大きな海がいつでも広がっている。

 

そして今、大政奉還が成った。徳川幕府はつぶれた。

まだまだ完全にとはいかないが、今日本は新しい日本になるための大きな一歩を踏み出したところである。

龍馬は、政治面での自分の役目はここまでだと考えている。

徳川政権がなくなった。新政府の構想は練った。

あとは西郷や大久保、桂達が「新政府役人」として上手くやっていくだろう。

—俺は役人なんか真っ平御免だぜ—

彼は思う。

—本当の俺の仕事はここから始まるんだ…!—

小さい頃からの夢。かれはこれから、存分にその夢を楽しむ予定である。

「世界を相手にどでかい貿易をしてやる。これからが俺の人生の一番の見せ場じゃ!!!」

龍馬は目を開き、そう叫ぶとにっと笑った。

 

木々の上ではすずめが絶えずさえずっている。

「さてと…。もう一眠りするかな」

彼は笑みをたたえながらゆっくりと部屋へ戻っていった。

 

目を閉じると海。壮大な海。彼の夢も希望も何もかも、海は大きく包みこんでいる—。

 

(平成某年某月某日識)

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