拝領文書
文書(一)
貴方がいなくなってからどのくらいの時が経ったでしょう
国のためにと、奔走していた貴方
やがて私を訪れる機会も少なくなり、ついには貴方の姿は見られなくなりました
最後にあったときの最後の言葉
胸に焼き付いています
国のためになど戦わずとも良いと、私のおそばにいて下さいと、言えなかった
やはり、それは言うべき言葉ではなかったでしょう
後悔などしていません
けれど、それが私の本当の気持ち
死んで欲しくなどなかった
わかっていながら送りだしたくなんてなかった
でも、貴方のために笑って、笑って、「いってらっしゃいませ」
と、言うほか無かったのです
私のように汚れた女を本当に好いてくれる人など居るわけがありません
貴方の言った最後の言葉
信じられるわけがないのです
でも、それを信じられたら、どんなに良いだろうと
今年も桜、見事に咲きました。
貴方の一番好きな花
世の中は目まぐるしく変化して、色々なモノが無くなり、反対に色々なモノが入ってきて
見知った人たちも亡くなっていきます
いつか、貴方は言ったでしょう
いつまでも変わらず君を愛すと
変わらないものなど無いのです
全ては変化して、
それが良いことなのかは分からないけれど
桜だけはいつまでも変わらず此処にあり、春には花をつけます
なぜ、今になってもこの樹を手入れしているのでしょう
思い浮かぶのは、滑稽な理由
それでも、唯一私の中で確かな感情
この樹の花のように、儚く潔く、いっそ気持ちの良いほどに
散っていってしまった貴方
(平成某年某月某日識)