[京都の霊山は]一代ノ逸才坂本龍馬の安眠する所。[中略]薩長の聯合成らずんば勤王列藩の合同成るべからず勤王列藩の合同成らずんば天下の事未だしるべからざりしなり。而して此合同を図るに方り功ありしものは首として坂本龍馬を推さざるなき能わず。今にして之を思う。龍馬は一の策士にあらず。一の説客にあらず。抑も亦人情の機微を穿ち、時勢の潮流を察し紛雑を談笑の間に解くの手腕ある偉物なりしことを。[中略]彼は経世的眼識に於ては武市瑞山に譲るに拘らず、其機略出没、其風采雄偉、其言論痛快、固より以て一世に逸出す。面して能く談笑の間に薩長の聯合を画する至ては、是れ最も其及ぶべからざる處ならずや。彼の徒に大声壮語、其実胸中功利の驅る所と為らざらんや
尊攘堂書類雑記
(平成某年某月某日識)