お国のために命を捨てようという人だと知らないか
直柔は真に天下の英傑なり
天下に有志あり。余多く之と交わる。然れども度量の大龍馬にしくもの、未だかつて之を見ず。龍馬の度量や到底測るべからず
西郷隆盛
高知藩に勤王の議を唱ふるもの少なかりしが小楯[武市半平太]の帰りしより、後進子弟靡然として響きの如くに応じ、また同時に坂本龍馬ありて出でたり。これ故に同藩士気益々振作せり
酒泉彦太郎
直柔、容貌温厚、言語低静にして志気卓犖英気なり、武技を喜くし、好んで史書を読む[中略]志気盆豪なり
資性豪宕、不羈小節に拘せず。嘗て読書を好み、和漢の史子を渉猟す
少より跌宕小節に拘わらず。長ずるに及て博く和漢の史籍に跋猟し、また武技を喜めり。初め本州の人、日根野義興に学び、のち東府に遊んで千葉周作に従い、其技を研鑽す。故に身体強壮の人なり
[龍馬が巡邏隊の真ん中を平然と歩み通るのを千屋寅之助らと評し]我輩はハシゴしてもしても及ばず
坂本直
後藤[象二郎]・福岡[藤次]は坂本や石川[中岡慎太郎]に刺激されて天下の形勢に着目するようになったのだ
龍馬は初め脱走せしに追々、[松平]春嶽公より御申入にて御免に相成候所、又々脱走し、乍併龍馬の人物なる事は曽て勝房州より老公[山内容堂]へ申上たる事もありしと聞けり
元来、坂本という男は時と場合とにより臨機応変、言わばデタラメに放言する人物なりき。例えば温和過ぎたる人に会する時には非常に激烈なる事を言い、これに反して粗暴なる壮士的人物には極めて穏和なる事を説くを常とせり。斯様の筆法なる故に、坂本には矛盾などいう語は決してあてはまらぬなり。昨日と今日と吐きし言葉が全く相違するといって少しも意とせず、所謂人によりて法を説くの義なりと知るべし
坂本は時として随分過激な語を吐きしが、性来は頗るやさしき男なりき。老人、幼者、婦女等に対しては殊に穏にせり。長崎に在りし際、時々部下の壮士を率いて酒楼に上りし事ありしが女共は何時も『坂本サン、坂本サン』と言いて非常に慕いたり。尤もこれは単に個人として坂本の親切に感ずるばかりでなく、坂本が居る時は壮士等は敢えて乱暴の振舞をなさぬ故に坂本の来るは彼等の歓迎すべきはず筈なりき。坂本また言いし事あり。『我々は今国事に奔走して幕府の指目する所となり居れば、何日何時縛につくやも測られず。もし萬一我々が、芸妓風情と相携えて撮影することありて、之により其踪跡を物色せらるるあらば、志士の面目として大いに恥づべき業なれば、我々じゃ断じて此の如き卑猥の行為あるべからず』と彼は疎大豪放なるが如くして、其實思慮の周密なること斯の如し
坂本は目的を定めなば必ず之を達する手段を講究したり余はある夜坂本と種々の談話を交換したりしが、此時坂本言う『我国に耶蘇教を輸入し、以て幕府を苦しめ倒さん』と。余言う『もし幕府を倒し得るとするも、該教の蔓延は我国體上の大変なり』と。双方論ずる事久し結局両人共に耶蘇教の何にものたるを知らず。俗に言う盲人の叩き合いにて何の厄にも立たず。深更に至り此等の研究の研究は他日に譲る事となし、果ては大笑いを催しつつ寝につきたり。坂本が目的に対して其手段を講究すること此類なり
一体、才谷[龍馬]は策略家で耶蘇を採用するというのも、ツマリはやむを得ざる窮策なのである。[中略]自分は才谷の様に変通が出来ぬので、どこ迄も神儒を以てする事を主張したけれども、其大根たる勤王の為めに身を捧げ、時期を計って幕府を倒そうという点に就ては、全然一致して居るので、こういう風に其方法をに就ては互に各方面から絶えず研究したのだ
才谷は一見婦人の様な風采であるが、度量はなかなか大きい
才谷はなかなかの計画家
才谷は実に時勢によく通じて居る
才谷は度量も大きいが、其の遣り口はすべて人の意表出て、そして先方の機鋒を挫いて了ようにする。実に策略は甘い[見ていて心地よいの意]ものであった
才谷は後藤[象二郎]、中岡[慎太郎]等と大政返上や新政等に尽力したが惜しむべし一一月一五日、新選組の凶刃に倒れた。[中略]自分は唯々呆然として夢の様であるし、また実に残念で腸をむしる様であった。早速、海援隊の方へ通達すると渡辺[剛八]が飛んで来た。大に怒り出し『是から上京して仇討をします』と眼の色を変えていう。で自分は『今日は天下一人の仇討をする場合ではない。大仇討の策略が肝要だ。之が却って坂本の本意でもあろう』と漸く押静めた事であった。こういう様に押止めるのが却って心苦しかった。[中略]坂本の変事は藩に於ては非常に惜しまれたもので要事の連中からの書簡にも必ず此事を書いて居る。殊に中島[作太郎]などは彼の屈強の子分であった丈に其再度寄した書簡などは実に悲壮を極めて居る
佐々木高行
勝[海舟]の手紙に坂本は剣術は中々つかえる、組打も上手だと書いてありましたが、さて道場に通して見ると坂本は大きな男でした。私は五尺二寸、彼の男は五尺九寸で胴も太い立ち上がると私の口が龍馬の乳房の辺に当たるのです。双方とも若い血気の盛です。しっかりやりましょうと取組で見ると組打は中々上手だ。[中略]実に偉い元気の男でありました。それから非常に親しく致しまして[中略]私の処で稽古をして居りましたが非常に上達しましたが、其後に国事の為に倒れたのは惜しい事です。[中略]坂本は例の無頓着で無刀のまま出て来たところ処を[中略]、[今井信郎]が一刀に斬ったのです。[中略]返す返すも坂本のような人傑を失ったのは惜しい事であります。今生きておれば疾に大臣になって居た人でありましたろう
[柔術で何度負けても勝負を挑む龍馬を評し]強情、坂本の如きは未だかつてその例を見ず
信田歌之助
(平成某年某月某日識)