短歌篇(坂本龍馬)
ゑにしらが〜
面影の〜
かくすれば〜
かぞいろの〜
君が為〜
くれ竹の〜
さよふけて〜
常盤山〜
挽臼の〜
藤の花〜
又あふと〜
丸くとも〜
道おもふ〜
もみぢ葉も〜
山里の〜
ゆく春も〜
世と共に〜
和歌を単線上に現代語訳するのは事実上不可能なので「大意」は半ば逐語訳です。
歌の風韻や詩情は原文から各々で構築しなおすことをオススメします。というか、してください。
今夜もふでをさしおかんとしけるニ哥の意、何共別りかねしがと前置きしてみえる即興的な歌。自身でも歌の意味がわかりかねると韜晦するが、書簡の内容と対比されることで含意をひろうことができる。その第一段は長府藩家老三吉周亮の去就について陸軍・海軍のあいだに不満があるらしい情報を、第二段は印藤聿への消息、第三段は三吉周亮の竹島同行が現状では難しいであろうとの見通し、第四段は蝦夷地開拓への展望、第五段は印藤聿・三吉慎蔵らが開拓計画に参加できうるかどうかの見通し、第六段は大洲船の長崎廻航にあわせ下関から自身も同船できないか思案中である旨の伝達、第七段は竹島までの距離や島の産物など諸情報、第八段は開拓計画への印藤聿らの参加意志の確認、第九段は開拓資金借り入れの相談、第十弾は産物調査にあたり人材確保の依頼などについて書かれる。
うつれバ曇ると表現し、開拓にむけた華やいだ気持ちを
春の夜に、
新国を開く
積年の思ひを見果てぬ
朧月になぞらえたものとみえる。書簡内容を前提とする表現には歌物語的所作が感じられて面白い。龍馬には元治元年(1865年)の蝦夷開拓計画の頓挫という苦い経験があるだけに、言わんとする歌の心は「月に叢雲、花に風」(好事、魔多し)ではなかろうか。
(平成二一年二月二一日識/平成二四年二月四日訂)