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短歌篇 文開く〜


和歌を単線上に現代語訳するのは事実上不可能なので「大意」は半ば逐語訳です。
歌の風韻や詩情は原文から各々で構築しなおすことをオススメします。というか、してください。

文開く 衣の袖は ぬれにけり 海より深き 君が美心
●大意:ひらいた手紙の文面に、着物の袖はぬれたのか。海より深く美しい、貴方の誠意によって。
●文……文字で書き記したもの。手紙。
●開く……閉じ畳んでいるものを広げる。開封。
●けり……回想や認識をしめす助動詞。ここでは認識によって生じる詠嘆的用法と解した。
●君……相手への敬意のこめた人代名詞。貴方。
●美心……龍馬自身「まごころ」と訓みをふる。虚飾なき心、誠。
●原本:京都国立博物館蔵「坂本龍馬桂小五郎遺墨」/底本:宮地佐一郎編『坂本龍馬全集』
●時期:文久三年(1863年)三月ごろか
●解説
 「坂本龍馬桂小五郎遺墨」にみえる歌群二カ所目冒頭の歌。詠作時期は不明ながら、音信の情について新鮮な感動をともない詠む点をかんがみ、脱藩後に家信の再開があった文久三年三月二〇日ごろの歌とみる。二〇日付の書簡によると龍馬は勝海舟のもとで日々兼而思付所を精とし、五月一七日付の書簡から兄権平にも私の存じ付ハ、このせつ兄上にもおゝきに御どふいなされ、それわおもしろい、やれやれと御もふしのつがふニて候あいだと、そのむねを直接相談したことがわかる。歌中のの語は、日々兼而思付いていたという海軍振興を志向する龍馬が、かなり意識的に詠みこんだ文字だろう。
●鑑賞
 龍馬より姉乙女子へ示せる和歌とされる [1]「坂本龍馬桂小五郎遺墨」中の歌なので、このは乙女と考えるのが妥当だろう。龍馬が海(海軍)にたいして一角ならぬ志をだくのは、先述のとおり権平をつうじて家族にも当時すでに周知のはずである [2]。その点をふまえて鑑賞すれば、「私が海へいだくの志よりも、いっそう深い姉上の美しい真心」といった意味にも受けとれうる歌。家族の想いが自身の想いより遥かにふかいものと捉え、衣の袖は手紙をつうじた姉のふかく美しい真心に感じいり、涙にぬれているわけである。歌に凝らされた技巧としては、ぬれに縁語 [3]関係、結句には美心という強調的用字が注目される。海がふかいものという認識は慣用句として古くからある一方で、和歌の流れにおいてみると、『新後撰集』源頼朝逢みてし後はいかこの海よりもふかしや人をおもふ心は以外、私は使った例をとくにしらない。ほかに和歌でぬれと縁語の関係を構成しつつ、深さの表現にもなる慣用語といえば、「淵」などが一番に個人的にうかぶが、龍馬ならやはり海の語こそ、ここでは相応しいだろう。

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  1. mark_utarnhotyu.png 考龍馬伝「詠作時期推考」参照。
  2. mark_utarnhotyu.png 権平と龍馬が上方で再開したのは文久三年三月上旬のこと。
  3. mark_utarnhotyu.png 文中にもちいられる語と語が、連想的関係で結ばれうる修辞法のこと。語が互いに照応しあうことで、文章表現に深みをもたせることができる。狭義には掛詞のように重複した意味をもちながらも、文脈・文字のうえで切りはなされた語と語にたいして言う。

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(平成二一年五月一三日識/平成二四年二月二四日訂)

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